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Channel: 藪井竹庵
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替り目

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イメージ 1 「替り目」と云えば志ん生なんですが、志ん生を初めとして古今亭一門は普通は、女房がおでんを買いに行く前に立ち聞きして亭主の独白を聞いてしまうところでやめて、「こりゃ大変だ。元帳見られちゃった」って事で、志ん生が戦前に出したSP盤の演題は「元帳」とか「亭主関白」になってる訳です。
 
 何故志ん生は後半部分をやらなかったのかってのは、どなたも疑問に思われるのではないかと思います。志ん生がそれに付いて何かを語った訳ではありませんが、米朝さんの「替り目」をお聴きいただくと、何故志ん生が後半をやらなかったのかが、うすうす想像が付くのではなかろうかと思います。
 
 志ん生は「そろっぺ(いい加減)」と云われてましたが、志ん生を調べれば調べるほど、志ん生ほど合理的に落語を語った噺家はいないのではなかろうかと思います。志ん生をぞろっぺだと思うのは、既に志ん生の作戦にはまってるんです。
 
 落語は元々面白く作られているんだから、余計な改作をする必要はないと云うのが当代の小三治の考え方だと思います。志ん生とてその通りで、何の改作もしません。ただ、面白く聴かせるテクニックを開発しました。それが「ぞろっぺ」です。
 
 志ん生は「え~、でありますからして~」とか「・・・って事なんですなぁ」とかって、訳の判らない事を云いました。落語ってのは、幼稚園の先生が子供にお話を聞かせるんじゃないんだから、正確に語る必要はないんです。「客を引っ張り込まなきゃダメだよ」って若い頃の圓菊に稽古を付けている音源で語ってました。
 
 もちろんそれがすべてではないんですが、少なくとも志ん生スタイルと云うのはそう云うもんなんです。志ん生の場合は演目なんかどうでも良くて、志ん生ワールドに客を引っ張り込んで、自由自在に弄び、あっと云う間に噺を終える。客は何が何だか判らないままに落語が終わったら非常にいい気持ちになっている。それが志ん生落語です。もちろんそんな事ができたのは志ん生しかいませんでした。
 
 と云う事で志ん生が「替り目」の後半をやらなかったのは、例の「仕立て屋の多平を知ってるか?」ってのを何度も繰り返す酔っ払いがうどん屋に絡むシーンに酷似しちゃってるので、本来この演目は酔っ払いの亭主とそれにしぶしぶと従う女房の話なのに、うどん屋との絡みを入れちゃうと、この話のポイントがボケると志ん生なら考えたと思います。
 
 だから、うどん屋が発する「酒の替り目だろう」と云うサゲなんかカットしてもかまわないと考えるのが志ん生流だと思います。

映像データ・・・平成4(1992)年4月9日 大阪コスモ証券ホール 米朝66歳時
 
 データ・・・三代目 桂米朝 大正14(1925)年11月6日~ 旧満州大連市生まれ 兵庫県姫路市出身 本名=中川清 出囃子=三下がり鞨鼓 平成8(1996)年 重要無形文化財保持者(人間国宝)顕彰 平成21(2009)年 文化勲章

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